Greetings
from Professor
より質の高い周術期管理を提供
Ryuji Kaku
教授 賀来 隆治
2022年4月1日より臨床医学系講座麻酔科学教授として着任致しました、賀来隆治です。着任して2年が経過致しましたが、自己紹介と今後の抱負を記させていただきます。
私は、学生時代、あまり真面目な学生ではありませんでしたが、臨床実習中から手術室の雰囲気が好きでした。というのも予定の手術では独特の緊迫感が漂う中で、厳かに手術が行われ、ひとたび急変・急患ともなれば上を下への大騒ぎとなり、患者さんのために多くの医療従事者が総力を結集する所が、お祭り騒ぎが大好きな私にとって魅力的で、将来はこういう場所で働きたいと感じていました。
1996年の岡山大学医学部卒業後に同大麻酔科に入局致しました。高校の先輩である同麻酔科の松三昌樹先生から全身管理の重要性について熱くご指導を受けたことから、とりあえず麻酔科に入局しましたが、当初は2年の麻酔研修の後、手術室で働く事が出来る整形外科への転科を考えておりました。
丁度、入局した年から岡山大学で肝移植が始まりました。ピッツバーグ大学で脳死・生体肝移植について学んで帰国された第一外科の八木孝仁先生を中心に岡山大学で初めて行われた生体肝移植を目の当たりにし、その周術期のダイナミックな変化や、術後の患者さんの管理を学ぶことが楽しく、麻酔科学への興味が大きくなりました。その後広島市民病院にて多田恵一部長の下で、研修をさせてもらいましたが、ここでも手術中の管理だけで無く、当時から術後ICUで麻酔科が主体となって管理を行っており、周術期の全身管理についてもっと深く勉強したいと強く思い、転科せず麻酔科医を続けるきっかけとなりました。
1999年に岡山大学病院に戻った後は、片山浩先生、溝渕知司先生をはじめ多くの先生からご指導を賜りながら、軌道に乗ってきた肝移植の周術期管理を中心として、ペインクリニック、ICUにも積極的に関与して参りました。2002年からは大学院に進学し、ペインクリニック領域で日々疑問に思っていた難治性の神経障害性疼痛の機序解明を目指し、横山正尚先生、板野義太郎先生の指導のもと、基礎研究に従事しました。当時は岡山大学でも神経障害性疼痛動物モデル作成が確立できておらず、いかに侵襲を少なくしてラットの腰神経を結紮するか、またその疼痛行動をどうやって評価するか、にかなりの時間を要しました。その後は歯科解剖学教室にて市川博之先生のご指導のもと、組織の処理、免疫染色の方法を指導して頂き、学位を取得することが出来ました。
学位取得後は森田潔先生のご高配によりアメリカに留学する機会を与えて頂き、コロンビア大学麻酔科のJay Yang教授の下で、分子生物学的な手法について学びながら、研究費の獲得方法、研究室運営の方法について指導を受けました。Yang教授との縁で、産婦人科名誉教授の森島久代先生からもご指導を頂きましたが、単身アメリカに渡り苦労されながらも研究室を立ち上げ、現在の地位を築かれた事に深い感銘を受けるとともに、いかに自分が恵まれた境遇であるかを知り、若い人たちに様々な機会を与える事の重要さを改めて認識しました。
帰国後は岡大病院麻酔科蘇生科助教、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔蘇生学講師として、これまで行ってきた肝移植の周術期管理や、痛みの基礎研究に関する科研費を継続して取得しながら、手術室、ICU、ペイン外来で、診療に従事して参りました。2018年からは医局長を拝命し、森松博史先生の下で教室運営にも関わる機会を頂きました。その節には多くの方々に多大なるご協力を頂きましたこと、心より御礼申し上げます。その後は諸先輩方から学んできたことを、後進の育成のため活かすべく麻酔科医として残りの人生15年をどう過ごすかを考えていた2021年夏に、三重大学麻酔科で人が足りない状況を知り、微力ながら自分に何か出来るのではと感じ、縁あって三重大学麻酔科で働かせて頂く事となった次第です。
三重大学病院の麻酔科は、16の手術室および２つのアンギオ室における術中管理を担当しております。赴任前の2年間は非常に少ないスタッフで、三重県の医療を守るため、各診療科及びコメディカルの皆様のご協力のお陰で手術症例数を何とか維持することが出来ておりました。お力添え頂いた方々に心から感謝申し上げます。赴任後、実際に手術室での勤務を開始いたしましたが、まさに毎日がお祭り騒ぎの忙しさで、麻酔科医を志した頃の思いが蘇りました。
赴任して２年間、そんな中でも、三重大学病院で手術を受けられる患者さんのために、また周術期に関わる全てのスタッフのために、これまで培ってきた経験を基にして、より質の高い周術期管理を提供できる様、丁寧に、誠実に、日々の症例を一例ずつ積み重ねてまいりました。関連各科からのご協力のもと、令和4年度は8000件を超える総手術症例、6000件に迫る麻酔科管理症例を無事に管理する事ができました。令和4年度には1名、令和5年度には3名の専攻医を迎えることもでき、お陰様で順調な船出ができたのではないかと感じております。
今後は術前外来を拡充し、術後ICU管理への関与を深めることで、より周術期全体に我々の力を発揮できるよう取り組んで行きたいと思っております。麻酔科専攻医が術後ICUでの管理を学ぶことは、彼らの将来のキャリア形成において非常に有益なことです。単なるサブスペシャリティの一つではなく、それにより術中管理の幅が広がり、より広い視野を持ち患者さんにとって良い方法を選択できるようになると考えます。内科外科によらず多くの科の医師と患者さんに関わる時間を共有することによって信頼を得る事ができれば、単に麻酔を担当する技術職としてではなく、周術期のスペシャリストとして認められる事になり、それが麻酔科医としてのやりがいに繋がっていくと信じています。
教育面では、大学での学生教育を中心とし、初期研修医、麻酔科専攻医とレベルが上がるに従って、専門的な最新の知識を吸収できるような環境を整えたいと考えています。具体的には、毎月それぞれの分野のエキスパートをお招きしてセミナーを開催すること、年に１度、神経ブロックに関するハンズオンを開催すること、加えて学外の様々なイベントにも積極的に参加できるよう若手をサポートしたいと考えています。またアカデミアとしての役割である研究の面でも、特定臨床研究および基礎研究を含めた大学院生教育に力を入れて、科学者としての広い視点を持った麻酔科専門医を育てて行きたいと考えます。
麻酔科は手術室という大きなチーム医療の場で、要となる診療科です。麻酔科に特有の技術や知識だけでなく、チーム医療の中心となって、タスクシフト/シェアを行いながら、皆と協働して患者さんのために働くことが求められます。常に周囲への感謝の気持ちを忘れず、お互いに尊敬の気持ちを持って、患者さんにより良い医療を提供するという同じ目標を掲げる麻酔科医が集まる教室にして行きたいと思います。志を同じくして、一緒に働いてくれる若い方々を心よりお待ちしております。
今後も三重大学麻酔科のさらなる発展のため、微力ではありますが、尽力する所存です。諸先輩方におかれましては、変わらぬご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。
